2026.07.21
2026年6月初旬は、コペンハーゲンで開催された3daysofdesignを訪れました。
前回のコラム記事で、フリッツ・ハンセンの特別ツアーについて、詳しくレポートを書きましたが(▷こちらからご覧いただけます)、今回はこの3日間に出会った、心に残る展示をブランドごとに、石井視点でご紹介・記録していきます。
3daysofdesignとは、北欧インテリアブランドだけでなく、世界から400以上のブランドが参加します。
今回、初めて3daysofdesignを訪れたことで、毎年訪れる4月のミラノデザインウィークとの違いも感じることができました。ミラノは、常に新しいものを生み出そうとするエネルギーに溢れており、展示も新作の発表に重点を置かれいかに新しい素材、デザインでマーケットの注目を集めるかに重点がおかれる刺激的なデザインウィークです。一方のコペンハーゲンは、街から醸し出されるゆったりとした雰囲気と重なり、来場者も“本物のデザインそのものへのこだわりや愛を持っている人”が多いように感じました。これはミラノでも共通しますが、コペンハーゲンでは特に古き良き巨匠デザイナーのプロダクトを現代に活かす発表が多く、主催・展示側もインテリアのストーリーや意味を大切にする方向へ育ってきた祭典だと思いました。
オペレーションの違いも大きく、ミラノでは大きな国際展示場と街での展示がありますが、近年人気のあるブランドや展示では事前予約制が徹底されていたり、コネクションがない限り、長い列にならばなくてはいけない、というような管理された状況です。
一方、コペンハーゲンではほとんど予約は必要なく、アプリ内の地図を片手に気の向くままに会場を周ることができます。そして、印象的だったのはどこでも無料でコーヒーを配ってくれるところです。もちろん新作の詳細を知るには、予約して担当の方にご説明いただく必要がありますが、素人も玄人も同じ目線でデザインを楽しめる要素が強かったです。

Bommaは、東ボヘミア地方の伝統的なガラス工芸を土台に、手吹きガラスと最新技術を融合させたクリスタル照明を手がけるチェコのブランドです。会場に選ばれたのは、デンマークに現存する最古の劇場建築のひとつ、「Hofteatret」でした。
1767年に国王クリスチャン7世のための劇場として生まれ変わった場所で、ちょうど今年、修復を終えたばかりの空間でした。歴史的建造物ゆえに、壁や床に一切傷をつけないことが絶対条件だったとのこと。
その制約のなかで、どうインスタレーションを成立させるか。そこにBommaというブランドの思考の深さを見た気がします。会場に並んだのは、272個のリサイクルガラスから生まれた作品たち。かつてのガラス作品の破片を、職人の手で宝石のように磨き上げ、天井から雲のように吊るしたインスタレーションです。そこに、チェコから招かれたバレリーナの舞が重なります。
ガラスの光と、生身の身体の動き—そのふたつが呼応しながら、改修を終えたばかりの 伝統的な劇場に、もう一度息を吹き込んでいくようでした。ガラスという素材が持つ「壊れやすさ」と、歴史的建造物が持つ「守るべき記憶」。そのふたつが重なり合う、忘れがたい展示でした。
シンガポールでも販売店はありますが、あまり注目されていない1999年創業のNormann Copenhagenは、「当たり前」を問い直すことをブランドの核に据えてきたデンマークのデザインハウスです。「ELEMENTS of Nature」という、素材そのものに焦点を当てたセクションがあり、そこでは「バイオベースの自然素材への挑戦」がテーマとして掲げられていました。
▲(左)月面のようで美しいペンダントライトも、廃棄された給水パイプ(PE水道管)の切れ端から作られている。シンガポールや日本ではまだあまり見かけないブランドだからこそ、こうして現地で体感できたことに価値があると感じています。(中央)廃棄された食品用紙パック(牛乳パックなど、本来は焼却処分される食品包装)を100%リサイクルされたPap Bookcase(パップ・ブックケース)(右)こちらのお店の周辺はコペンハーゲンでも家具店が軒を連ねるエリア。期間中は夜になるとたくさんの人が集まりパーティーが繰り広げられていました。近年デンマークではデザインだけではなく食に関しても世界から注目を集める年になりました。中でも特に予約が取りにくいとされるAlchemistは、シェフ Rasmus Munk(ラスムス・ムンク)が手がける、2つのミシュラン星を持つレストラン。彼が掲げる「Holistic Cuisine(ホリスティック・キュイジーヌ)」という考え方は、料理を皿の中だけで完結させず、劇場的な演出や社会的な問いかけを通じて、食事という体験そのものを拡張しようとするユニークなものです。世界のベストレストランランキングでも常に上位に名を連ねて、なかなか予約が取れないレストランです。
今回はGubiによる特別ツアーというかたちで参加しました。実は、Alchemistには、Gubiのチェアが揃えられています。ひとつのブランドの椅子が、このある意味レストランを超え、劇場のように移り変わる部屋のトーンを静かに支えていました。
こちらのレストラン。ドームに広がるスクリーンには、環境や社会をめぐる問いが映し出され—ひつじの脳みそ、舌のかたちをしたスプーンなど、ひと皿ひと皿が「考えさせる」ための装置になっていました。1コース5時間という長い時間をかけて紡がれる物語には、専属のエンジニアチームが手がけた映像美も欠かせない要素です。
▲こちらが料理。グロテスクですが…全部食べることができます。目玉の料理は、「見ることは、見られること」という監視社会への問いを、まるごと一皿に落とし込んだ料理。気になる価格ですが、基本となる「Alchemist Experience」で1名あたりDKK 5,600(サービス料・税込、日本円でおよそ13万円前後)!!
食べることは、本来もっとも身体的な行為のはずなのに、そこに知性と倫理が重なることで、まったく違う体験になる。そんなことを考えさせられた夜でした。一生に1度は行ってみたいレストランです。
フリッツ・ハンセンと並び、デンマークを代表する巨匠ブランドといえば、Louis Poulsenの名を欠かすことはできません。まぶしさを抑えながら、やわらかく空間全体を照らす「PHランプ」の思想は、今なお色褪せることがありません。
▲時代を超えた名作照明(左)PHアーティチョーク(右)PH5デンマークでは、ペンダントライトを比較的低く吊るすことを好みます。Louis Poulsenでは、テーブル天板から照明下端まで約60cmを推奨しています。日本やアジアでは「もっと高く」吊るすことが圧倒的で、私自身も80〜85cmを提案することが多く、クライアントによっては90cm前後になることもあります。
デンマークでは、低く吊るすことで、空間に美しい陰影が生まれます。顔やテーブルは明るいので、機能的な不便もありません。
その先にあるのは、まさにこのヒュッゲ(デンマークの日常の心地よさを表す言葉)の感覚なのだと思います。自然と人が寄り添い、会話がゆっくりとほどけていく。デンマークの照明文化が長く大切にしてきたのは、「見えること」以上に、「過ごす時間」をつくることなのかもしれません。
デンマークの第二の都市Aarhuで産声を上げたBolia。「New Scandinavian Design」というコンセプトのもと、世界中のデザイナーとの協働を通じて、北欧らしさを現代的に再解釈し続けているブランドです。サステナブルな素材選びと、10年保証という品質への自信も、Boliaらしさのひとつだと思います。
シンガポールにも店舗があり、シンプルで上質、そして温もりあるインテリアは、日本人の方が好むクワイエットラグジュアリーな雰囲気とも馴染みやすく、Sollys Designでもご紹介させていただくブランドです。
比較的新しいブランドながら、今回もっとも印象に残った展示のひとつがNew Worksでした。2015年、Nikolaj Meier(ニコライ・マイヤー)とKnut Bendik Humlevik(クヌート・ベンディック・フムレヴィック)によってコペンハーゲンで設立され、彫刻的なフォルムと素材への探究心を核に据えたデザインハウスです。
会場で目を引いたのは、空間全体で見せるソファの展示。家具だけではなく音と香り、耳と目—五感すべてに訴えかけてくる設えでした。
新作の椅子や棚を展示するスペースでは、デンマークらしい低め・落ち着いた照明の高さで、座ったときに顔だけがやわらかく照らされる。天井はあえて暗いまま残しておく。すべてを照らすのではなく、暗がりを残すこと—その引き算の美学に心を動かされました。
いかがでしたでしょうか。コペンハーゲンの3daysofdesign、そしてミラノのデザインウィークの2つを今年は回れたことで、インテリアにおける新しいアイデアや発見がたくさんありました。クライアントに還元できることが楽しみです!
ぜひシンガポールへお引っ越し・移住の方は、Sollys Designまでお気軽にお問い合わせください。
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